スマートコントラクト

【概要と結果を簡単理解】分散型台帳技術に関する共同調査【日本銀行・欧州中央銀行】

2017年9月6日、日本銀行(以下、日銀)は欧州中央銀行(以下、ECB)と2016年12月から行っていたブロックチェーン技術の共同研究「Project Stella」の結果である「日本銀行・欧州中央銀行による分散型台帳技術に関する共同調査」を公表しました。本記事ではその内容についてお伝えしていきます。

 

 

 

1.プロジェクトの背景

 

 

 

日銀とECBで行われた実験の背景についてですが、今回のレポート(実験)の目的は次の5つににあるといいます。

 


1.ブロックチェーンのシステムは既存のシステムに比べ代替性があるのか

2.日々進化しているブロックチェーンテクノロジーの内容を把握する

3.主要な機能が分散型台帳(Distributed Ledger Technology、以下、DLT)で応用可能か

4.処理スピードは現行のシステムと比較してどうなっているか

5.耐障害性についてはどうか


 

 

そのため、調査の範囲についてはあくまで限定的に実施し、導入コストや市場統合への影響などは一旦考慮しない方針で調査をしたのが今回の内容ということです。

 

 

また、DLTが具体的にどのようなものなのかという実感や、特に処理スピードや耐障害性に焦点を当てているということがレポートの主な内容ということが確認されています。

 

 

2.調査・実験の内容と結果

 

 

以下の内容は「日本銀行・欧州中央銀行による分散型台帳技術に関する共同調査」より引用します。

 

(1)DLT に基づくシステムは、即時グロス決済(real-time gross settlement、 RTGS)システムとほぼ同等のパフォーマンスを示し得る。 

(中略)

(2)DLT のパフォーマンスは、取引内容の検証作業を行う参加者(検証ノー ド3)の多寡――すなわち、DLT を構成するネットワークの規模――や、これらのノード間の物理的な距離に影響を受ける。

(中略)

(3)DLT は決済システム全体としての耐障害性や信頼性を高められる可能性がある。

 

 

つまりこれらはどういうことかという点について詳細をお伝えします。

 

(1)について:日銀およびユーロ圏での即時グロス決済の処理速度とほぼ同じスピードということです。なおかつ「取引指図」(何時にAに〜支払う)も処理できるということです。普段のそこまで混み合っていない具合の取引指図の件数は1秒間あたりに10〜70件あるという前提のもとでは、DLTで処理するための時間が平均で1秒間未満だったということです。

 

それ以外にも、混雑している状況(1秒間あたりに250件の取引指図)を想定して実験したところ、処理を早めようとすれば1秒間あたりのデータ送信量が増えて負荷がかかり、逆にその負荷を軽減させようとすると処理が遅くなってしまうというトレードオフの関係があるということが確認されたそうです。

 

また、さらに今回の実験では、流動性節約機能といわれる決済機能もDLTの環境の中で処理できることがわかったということです。

 

 

(2)について・・・ネットワークを大きくすればする(端末の量を増やす)ほど、パフォーマンス(支払い処理)のスピードは低下し、逆にそのスピードを上げようとすればするほどネットワークの規模を小さくしなければならないというトレードオフの関係性が確認されたようです。

 

ただし、ネットワークの意思決定(支払い確認をしてくれる端末同士の認証)に必要な数の端末がそれぞれ近くにある場合は、ただの端末が遠くにあってもパフォーマンスへの影響は限定的ということの模様です。また、それとは逆に意思決定をする端末の物理的な距離が離れている場合は処理時間が長くかかるということが判明したようです。

 

 

(3)について・・・今回の調査内容では、一部では次の状況が発生しても、障害に耐えられる場合や、ネットワークを安全に運用できるようなことが確認されたようです。

 

ⅰ:取引を確認する作業をする端末に障害が発生

ⅱ:取引指図の方法が間違っている場合

 

上記の場合でも、決済機能はしっかりと運用ができたということが確認されています。

 

 

 


補足

即時グロス決済・・・ある金融機関の支払い失敗が必ず特定されるシステム。時点ネット決済はこれができない。時点ネット決済と比べると、各金融機関の支払いが停止するリスク(=システミック・リスク)を格段に回避しやすい。

 

時点ネット決済・・・各金融機関が中央銀行へ振替を「ある時点」で行うように指示をする。ただし、「ある時点」は中央銀行によって先に決められたものであり、各金融機関はその選択肢の中から「〜銀行へX円の振替を行え」という時間を指定する。それが実行されたあとに、中央銀行は各金融機関の当座預金の残高更新を行う。仮にその指図の処理が1つでも失敗した銀行がある場合、他の銀行の処理も失敗する可能性がある。

 

システミック・リスク・・・個別の金融機関による不払いの発生が影響し、他の金融機関もその不払いによって影響を受け、市場の資金効率が悪化・決済システムなどに悪影響を及ぼし、システム全体に不備が生じること。

 

時点ネット決済の問題におけるモラルハザード・・・かつて銀行は「潰れない存在」であった。資金効率が悪い銀行であっても高い利子で各金融機関は相互に支援しあっていた。その際に発生したリスクは日銀負担であったため、日本銀行がどうせカネを貸すという空気感がはびこった場合、銀行の競争力の低下・そして中央銀行の損失拡大が人々への貨幣に対する信用を下げる(=円安)方向に力が働いてしまうこと

 

流動性節約機能・・・それぞれの金融機関が決済を行うために備えておく資金の量を節約する機能。金融機関が日銀へ支払指図を行う場合、資金がたりていない場合はその指示が拒絶される。そのため、各金融機関は多額の担保を用意しておく必要があったがこの機能により未処理の決済残高がたまるリスクを避けられる。決済がスムーズになるような仕組み。


 

 

3.今後の可能性と課題

 

 

ECBおよび日銀は今現在運用している決済システムに必要な処理とほぼ同じパフォーマンスをすることができるという可能性を確認できたようです。両者はこの結果に対して前向きにとらえているということをレポートの中で述べています。

 

今回の実験で認識されたこととしては、「端末(ノード)の物理的な配置」や「システムに関する情報を正しくDLTの仕組みに反映」していくことに対し、あらゆる場面を想定しながら検討していく姿勢をみせています。

 

また、障害への耐性・信頼性という意味でDLTに対しての視点を他者に提示することができたということもうかがえます。また、間違ったフォーマットで行われた取引指図もスマートコントラクトで未然に防ぐことが可能であり、システムの処理に大きな影響は生じていないということが確認された模様です。

 

 

 

報告書の最後に述べられていますが、このDLTを日銀・ECB両者ともに将来的に応用できる可能性を感じられている一方、あくまで今回のは「実験環境」ということもあり、本番の環境では実際にどう運営されるのかという実用性の観点で言うとまだまだ検証する余地があるとのことだそうです。

 

 

以上です。いかがでしたでしょうか。なるべく専門用語については噛み砕いてお伝えしましたが、国家の決済システムはあらゆる想定をした上で運用されていることもあり、一部難しいと感じるかもしれませんが、ぜひこの内容について理解し、日銀・ECBの発表に期待していきたいですね。

 

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